地面に穴を掘り、じっと隠れて命を繋いだ数年間

私が散歩とリトレーニングの依頼を受けた保護団体の施設には、さまざまな理由で引き取られてきた犬がいました。

白く美しい毛とスリムな体を持つウェンディは、多頭飼育崩壊現場から救い出された犬のうちの1頭でした。

『多頭飼育』など名ばかりで、現実は数十頭の犬が小さな檻に入れられるか、短い鎖で繋がれて人気のないプレハブ小屋に押し込まれていました。

食事は気が向いた時だけ与えられ、生まれた時から愛情を持って触られたこともなく、名前もないただただおびえて生きるだけの地獄の日々。突然の飼育放棄で、保護団体がようやく介入出来た時には助けられなかった命も多くあったそうです。

そんな中でウェンディは兄弟犬とともに、短い鎖を精一杯伸ばして犬小屋の下に穴を掘り、隠れるようにして生きてきました。そこで何を見て、何から逃れたかったのか、想像するだけでもつらい気持ちがこみ上げてきます。

ウェンディは人間に対して極度の恐怖心を持ち、当然触ることも近づくこともままならず、救出にも非常に時間がかかったそうです。

警戒と恐怖で心をシャットアウトしている犬

初めて保護施設に行き、ウェンディについて説明を受けている時、ウェンディがいるはずの犬舎には何も見えず、カタリとも音がしませんでした。

5~6メートル離れた場所にいましたが、初めてきた人間に対して存在を気付かれないようにするかのように犬舎内の小屋の一番奥に身を縮めていたのです。

その日はまず、私の存在をウェンディの中で意識してもらえれば十分。

声はかけず、でもウェンディが私をよく観察できるように隠れている場所からなるべく見える場所を動き回ることにしました。

ウェンディがすでに見知っているスタッフと話したり、ウェンディが心を許している仲間の犬の世話をしたりして過ごしました。

ウェンディが陰に隠れて私をジーッと見つめていることは目の端で捉え気付いていました。心の中で「あなたを傷つけることは何もしないよ。味方だよ。」と語りかけながら過ごし、帰る時にだけ「ウェンディ、またね」と、遠くからそっと声をかけました。

警戒しなくてもいい人間がいることを知って欲しい

初日こそウェンディの姿はほとんど見ることが出来ませんでしたが、次に行った時には進歩が見られました。最初はサッと小屋に入ったものの、私が背を向けた途端に首を伸ばして様子を伺っていました。

ウェンディに強い関心を持っていると感じさせすぎない程度に、時折声をかけたり檻の近くを歩いたりしているうちに、そろりそろり…と小屋から出てきてくれました。私が振り向くと小屋に隠れて、というようなことをくり返しているうちに隠れずに私と顔を合わせてくれるようになりました。

その時点で私に出来ることは「怖がる必要はない。あなたの望まないことはしない。」ということを、行動で示し続けることだけでした。

それでも徐々に警戒をゆるませ、私に背中を向けたり伏せたりすることが出来るようになってきました。

普通の犬ならなんてことのない行動も、常に周囲への不信感でいっぱいのウェンディにすれば、人間に隙を見せる勇気のいる行動なのです。

そんな気持ちに応えるべく、私から慌てて距離を詰めたりせず、ただただウェンディの行動を受け入れていました。

楽しみを持って過ごすことが出来る当たり前の幸せ

触れ合うことのない私とウェンディのコミュニケーションは、本当に少しずつですが前に
進んでいました。

2か月が経つ頃には柵越しではあるものの、私の手からおやつが食べられるようになりました。

ウェンディがほんの少しずつ見せる心を、決してまた閉ざしてしまわないように慎重に近づいて関係を築いていきました。

正直、保護団体のスタッフも私もウェンディに里親を見つけるのはむずかしいと思っています。

一般的な家庭にあるものなど見たことも触れたこともない…。

リードをつけて散歩に出たこともない…。

人のちょっとした動きに驚き脱糞してしまう…。

ウェンディが普通の家庭で暮らすにはとてつもない数のハードルがあり、それを乗り越えるには途方もない時間がかかり、ウェンディ自身に多大なストレスがかかることでしょう。

少なくとも10歳以上であるウェンディには厳しいハードルです。

それでも保護施設の中で過ごす日々の中で、少しでも多くの「楽しい」「うれしい」「幸せ」という気持ちを感じてほしいと願っています。

「生活の質」を少しでも高めること、それがウェンディに必要なトレーニングなのです。

今ウェンディは、私が施設に行くと立ち上がってシッポを振って出迎えてくれるようになりました。自分を傷つけない人間の存在を知って、それを楽しみに待ってくれているとしたらとてもうれしく思います。

ウェンディのこの先の時間全てをかけて、喜びや楽しさを感じることの出来る日々を伝えていきたいと思っています。

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