老犬だって散歩に行きたい

犬にとって散歩は最大の楽しみだからこそ、犬に負担がかからないような状況で散歩はしたいものだ。朝・昼・夜と1日3回、犬は自分の生活圏の巡回に出て匂いを嗅ぎ、情報を得る。犬には犬なりに自分の生活圏の中で気になるスポットがいくつかあるようで、そこを1日1回は通りたがる。どんな犬が自分の周辺を歩いているのか、どんな動物がそこにいたのか、ヒトとは異なり情報にストーリー性はあまりないが、その場その場の認識をすることは犬の持つ経験と照らし合わされて、犬の精神の安定につながる。

若い頃には森でさんざん走り回ってもすぐにエネルギーが充電され、翌日には「さあ、いこう!」と飛び起きていたうちの犬。時が経ち、壮年時代を超えてうちの犬もとうとう老犬と呼ばれる年になったが、それでも家の中で外出の気配を感じ取るとのそりと起き上がり、若い頃と同じ散歩コースを今も歩いている。

昔のようにはじけて遊ぶでなし、しかし犬なりに気になるところを好きなように匂いを拾って歩き、すれ違う犬とも適当に挨拶を交わしている。たまに気に入った相手だとプレイバウで遊びに誘うこともあるので、ヒトが年齢を聞いて思うほどヨボヨボしているわけでもないことはあきらかである。その姿はやはり家の中で過ごしてばかりいては見られないものであるし、このような社会的刺激が適度にあるからこそ犬の精神も健全に保っていられる。

急いでいるときなど私がちょっとずるをしてコースをショートカットしようものなら、犬はすぐに気づき「まだそっちへ行くには早い」と言いたげに立ち止まって頑として動かない。しかしこればかりは今に始まった老犬の頑固さなどではなく、若い頃からである。この頑固さがかえって今の散歩量を維持しているようにも思える。

もしも犬が若いうちから飼い主が散歩をサボり犬に社会的接触の機会を与えずにいると、犬は社会から断絶され、そのために他の犬との交流が苦手になったり、生活周辺環境への認識が不足し犬の心は怯えや極度な警戒心へと発展し、つまり精神的に健全とは言いがたい状況に追い込まれるのだが、このようなことは幸いにしてここ数年でずいぶんと周知されるようになり、多くの飼い主がとにかく「犬の社会化」を気にするようになった。

しかし犬の社会化のほかにも飼い主が散歩をサボることの弊害はまだある。散歩に行かないことで犬の運動の機会が減ってしまうということだ。大型犬の飼い主ともなると犬に充分な散歩時間と自由運動の機会を与えるのはいわずもがなだが、それでも性格の穏やかな犬だと飼い主のペースに犬が合わせられ散歩の時間が短くなったり、ましてや小型犬だと「散歩はいらない」と本気で思い込み週に数えるほどしか散歩に行かないケースも多々ある。

犬種や大きさにかかわらず、長時間の散歩や自由運動の機会を与えずにいると、犬の体は本来つくべき筋肉が充分付かないうえ関節や筋が鍛えられず、その影響は歳を取ってから現れる。特に大きな疾患もないのに年とともに筋肉が衰退して足腰が立たなくなり、寝ている時間が増え、やがて寝たきりになる。ましてや犬が肥満傾向にあるとその症状は顕著、若い頃の運動不足は筋肉虚弱と肥満を招くのである。


これまであちこちで「散歩は毎日行かなくてもいい」とか「毎日行くとクセになる」、「散歩に出ても匂いを嗅がせずに道の真ん中を歩け」など、ほかにも散歩にまつわるいろんな言葉を聞き、その度に耳を疑った。「うちの子は散歩が嫌い」とか「雨が降ると歩きたがらない」というのは、犬は楽しい散歩をさせてもらっていないことの裏返しなのに、飼い主自身がそれに気付いてないのはちょっと悲しい。犬の散歩はたしかに面倒くさい。でも自分のことだけを考えるなら犬なんて飼わない方が犬のためだ。

犬はそもそも生きるために体を動かし、体をつくり、そして精神を保っている。どんな犬でも捕食動物としての行動を持ち、興味探求への欲求があり、社会の中で生きるように生まれてくる。そしてそれは犬が歳を取っても変わることなく備わっている習性である。

もしも犬が少しでもおやつやおもちゃに興味があるなら早いうちからそれらを使って一緒に遊んでおこう。「お座り」や「待て」などのコマンドを教えるのもいいが、ルールを決めて「引っ張りっこ」をしたり「持ってこい」をしたり、あるいは前方に伸ばした足の上を飛び超えさせてみたり、部屋の中でも戸外でも散歩中でもできる遊びがある。飼い主が遊ばないなら他の犬と遊ばせてもいい。とにかく遊びの機会・自由に運動する機会を犬が持つことが犬の体にとって自然であり不可欠なのである。


おもちゃを持っていなくても丸太の上に乗ってみたり、散歩の途中にちょっとした遊びを取り入れることで散歩の質はグッと上がる。丸太に乗るというのは一見単純な動きのように見えるが、体のバランスを取るために犬は脳といろんな筋肉を使う。慣れていなければ犬だってすぐに落っこちてしまうのだ。



遊びに誘うことで犬の体は単に自発的に動くだけでなく抑揚を持った動きとなり、それに耐えられる強靱な体を作り上げる。そして遊びを通して気持ちも昂揚し代謝が促進される(ただ何事もやり過ぎには用心。遊びにルールがなければ興奮しすぎたり、また急に激しい運動をさせると部分的に負荷がかかりすぎて傷めることがある)。

老犬だって、遊びに誘うとおやつやおもちゃに飛びついてくるし、(長続きしなくても)遊ぶことで体の運動だけでなく楽しいという感情を飼い主と共有することができ、脳の刺激になる。若い頃に作られた強靱な体は年を取って若干筋肉が衰退したところで毎日散歩に出掛けるには充分な筋肉を残し、また毎日の散歩はその体を支え続ける筋肉を維持しながら、犬の社会性と精神的安定感を保つことができるのである。

犬が年を取って寝ている時間が増えたからといって散歩や遊びをサボることだけはしないで欲しい。サボると犬の老化は加速する。

この頃日本では「老犬ホーム」や「老犬介護」が犬ビジネスのブームらしく、先日訪れたペットショップでも老犬介護用品コーナーが広く取られ、さまざまな介護用品が販売されていた。これだけ多くの介護商品があることで、ありがたいと感じる飼い主は多いかもしれないが、それが当たり前になってしまうのではないかという危機感さえ感じられた。

でも犬の体が本当に欲しがっているのは老後の介護じゃない。それに気付いたうえでのビジネスなのだろうかという疑問を抱かずにはいられなかった。

著者:京子アルシャー
転載元:老犬だって散歩に行きたい | dog actually - 犬を感じるブログメディア


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