ただ1頭、屋根の上で暮らしていた犬

私が散歩とリトレーニングの依頼を受けた保護団体には、さまざまな理由で引き取られてきた犬がいましたが特に多かったのが『多頭飼育』の現場から救出された犬たちでした。

その中に、60頭近くの犬を保有しながらも世話や散歩をすることなく、狭いケージに押し込めたまま放置したり、気が向いた時にえさを与えたり…というあまりにもひどい現場から救出された<ルーフ>という犬がいました。

ルーフは保護団体のスタッフや獣医師が救出に入った際、たった1頭プレハブ小屋の屋根の上にいたそうです。人に対して警戒心をあらわにし、触れようとすれば噛みつく…。数人がかりでようやく下ろすことが出来たようですが、非常に苦労した1頭だったそうです。

元の飼い主に乗せられて逃げ回るので下ろせなくなった…というようなことでしたが、いずれにしてもどれだけ心細い思いで日々を過ごしていたのか。心が痛みます。

どれくらいの期間屋根の上で過ごしたのかわかりませんが、1頭きりでいた時間が長かったせいか、人だけでなく犬に対してもひどく恐怖心を持っていました。

リトレーニングのスタートは突破口探しから

元の飼い主からただ屋根に乗せられただけでなく、ひどい扱いを受けてきたルーフは、極度の人間不信に陥っていました。

近づいてくる人間に唸り声で警告を与え、手を伸ばしてくる相手には歯を剝き出す。
近づき、手を伸ばした人間にこれまで何をされてきたのか…。とにかく恐怖心でいっぱいのルーフは、当然のことながら初めて会う私に対しても、これ以上ないというほど警戒心をあらわにしていました。
保護したスタッフも獣医師も何度も噛まれたり噛まれそうになったりしたそうです。

そんなルーフにはまずは私が「無害」であることを知ってもらう必要がありました。

幸いなことに、ルーフは食べ物に強い興味があり、ほんの少し食べ物で関心を引くことが出来ました。そこで私は、ルーフのケージの前を通るたび、無言でそっとおやつを投げ入れました。

すぐには取りに来ず、じっと私がいなくなるのを待ってから食べに来ていましたが、ひたすらくり返しているうちに私を待ち構えるようになってくれました!

ルーフのような犬たちの場合は、恐怖心を上回るものを見つけること自体がむずかしいため、「食べ物が好き」というのは非常に重要なポイントです。
「しつけの時おやつで気を引くなんて…」という意見もありますが、保護犬のリトレーニングの場合は、そのようなことは言っていられません。

人は怖い、犬も嫌い、そんなルーフはおやつが好き。
ルーフのリトレーニングの突破口が見つかりました。

同じ空間に人がいることに慣らす

一般的な家庭犬であれば当たり前でしかないことですが、人と一緒に楽しい時間を過ごしたことのないルーフは、長い時間そばに人がいることにストレスを感じていました。

リトレーニングが進み柵越しに手からおやつを食べれるようになった後、柵の中に入ってみることにしました。

決してルーフと目を合わせて恐怖心を抱かせないようにし、目をそらしたり体を横に向けて「敵意はない」ということを示しながら、短い時間ずつ柵の中で一緒に過ごすようにしてみました。

何度もやっているうちにルーフから近づいてきて私の匂いを嗅いだり、手をペロッとなめてくれるようになり、本当に大きな進歩を感じました。

虐待の罪深さを感じさせられた最期

徐々に私に対して警戒心を解き始めてくれたルーフ。

誰も触れることが出来ないルーフは、人からなでてもらうという経験がありませんでした。私はすこしでも人の手の温もりを感じてほしいと思い、またおやつを使って触れる練習をスタートしたのです。

圧迫感を与える手のひらを向けないようにし、軽く握った手の甲を、おやつを与えながらそっと毛に触れさせることからスタート。始めは触れたかどうかルーフにはよくわからない位軽く。触れる時間、強さを調節して徐々に「なでる」という行為に近付けていきます。

触れることが出来るようになるまでに数か月をかけ、その頃には私の姿を見るとシッポを振って小屋から出てきてくれるようになっていました。

とはいえもちろん急に近づいたり、強く触れようとすればサッと逃げたり、攻撃してくるであろうということは見て取れました。

深く傷ついたルーフには、人に対して完全に心を許すことはとてもとても難しいことなのだと思います。

その心を少しでもほぐすために出来ることは、時間をかけてルーフに寄り添い、わずかに見せてくれた感情を受け止めて決して裏切らないこと。

長い時間をかけて関係を築いていければ…と思っていましたが、残念なことにルーフは病に倒れ亡くなってしまいました。

保護されてから5年以上、その体をほとんど誰にも触らせることはありませんでした。
それでも最後は、弱った体を保護団体の方に何度もなでてもらうことが出来たようです。その方は亡くなって初めて抱きしめてあげることが出来たと泣いていました。
私はもっともっと何か出来なかったのかと、後悔と無念さを感じました。

死ぬまで消えない恐怖心を植え付けたのも、死ぬまで寄り添い最後に抱きしめたのも、どちらも人間です。

痛みや苦痛を与えた瞬間だけでなく、いつまでも忘れられない傷をつくる虐待。
どうかこの世からそんな恐ろしいものがなくなって欲しいと痛切に願いました。

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