犬と暮らすための最初の条件

少し前の話だが、今年(2013年)の3月にドイツ国内の民法を審理する連邦裁判所(連邦最高裁判所)が「賃貸契約の約款(やっかん)において、猫と犬の飼育に対し大家の許可を必要とすることは基本的に禁止」という判決(連邦裁判所ファイル番号: VIII ZR 340/06)を下し、話題になった。

これまでのドイツでは、持ち家・持ちマンションでは最低1頭のペットの飼育は誰の許可や了承を得る必要もなく許されている状況である一方で、多くの賃貸物件でもペットの飼育は許されているものの、入居契約を行うにあたり、小鳥と熱帯魚類を除いた動物の飼育、特に犬と猫の飼育は賃貸物件の持ち主(=大家)の許可・了承に委ねる状況にあった。

しかし、中には賃貸物件での動物の飼育を好まず、入居者を非ペット飼育者に限定することもしばしば。特に過去にペットを巡ってトラブル経験を持つ物件の場合、新しい入居者は非ペット飼育者とすることがある。個人的には大家さんの気持ちも分からないでもない。

犬は吠えるし猫はひっかくし、いずれも抜け毛が共有場所に散乱したり、部屋に動物臭が染み付いたり、敷地内に糞尿を落として行ったり、ペットを飼育している者なら普通のことかもしれないが、限度を超えれば飼育していない者にとっては単なる迷惑となる。それらが原因となって、同じ建物に住む住民同士のトラブルに発展しかねないし、物件を貸す側にとっては物件が損傷することでその資産価値が下がる。

そうなってしまっては大家としてはたまったものではない、トラウマになってしまうこと必至。というわけで、近隣住民への配慮と物件保護のために、転ばぬ先の杖として日本のように非ペット飼育者のみを対象に物件を貸すという条件付けをする事例が増えてきた。

トラブルの原因となりかねない入居者を抱えたくないから一律にペット禁止、そういった先入観たっぷりで一律に判を押したような賃貸条件についての訴訟を起こしたのは、賃貸マンションに10年住んだ後に猫を飼いたいと思ったが大家に断られたひとりの男性だった。ペットの飼育が個人の自由判断の範疇であるのか、それとも客観的・実質的な理由により、一般的にダメとされるものなのか、その判断をこの男性は連邦裁判所に求めたのだ。

ただし、連邦裁判所の下したこの判決の理由は「動物への愛情」によるものではなく、「これまでの約款は賃貸住宅入居者の信義誠実の原則に対し不利で不当である」というもの。気に入った物件があってもペットがいるというだけで入居の対象にされない、あるいはこの訴訟を起こした男性のように住み慣れた家に住み続けながらいつしか動物を飼いたいと思ったとき、飼育当事者である借り主の貸し主への信用を裏切らないための努力や考え方を知ることなく、一方的に賃貸契約によって生活条件を決めてしまうのは、借り主に対し不当であると言っているのである。

この判決に気をよくすると、どこの賃貸契約でも大家の許可なく犬や猫を飼えるということにはなるが、結果的には賃貸住宅でのペットの飼育はあくまでもペットの飼育による賃貸物件への影響が「通常の消耗程度に限」ることとされ、もしも周囲に配慮のない飼育の仕方をしているとそれはそれで問題となり、もちろん契約破棄にも繋がるという可能性について貸し主側は契約条件に盛り込むことができる。こうして連邦裁判所は、動物の飼育に関しては一般的に一律に禁止をするのではなく、まずは貸し主と借り主がお互いに話をし、さらには近隣の住民とも話をして折り合いを付けることという方針を言い渡したわけである。

さて、日本でも行政への苦情の上位に上がる「犬の吠え」は、ドイツでも犬の飼育状況の悪さを語るもっとも典型的な例で、この判決によると犬の飼育者は、賃貸物件損傷と近隣への迷惑とならぬよう犬に適正な飼育を行わなければならいということが強調されたことになる。

この裁判を通して、原告である借り主男性は猫を飼うことができ、貸し主である大家はペットの飼育を禁止することができずに負けてしまったことになるが、話は結局、判決を受けて背筋を正すのは借り主である動物の飼い主の方である、という教訓を含む。

賃貸物件の損傷と近隣への迷惑を考慮した適正飼養は、周囲に緑がなくコンクリートに囲まれた都会の環境ではそう簡単にできないことを動物好きなら認識するべきだろう。また都会・田舎にかかわらず、狭い住居の中で一日の大半を過ごし、散歩に出る時間も短く、他の犬にも出会う機会すら少ない環境では、たとえ適応力が高い動物と言われる犬でもさすがに限界があるどころか、犬によっては容易に不適正な環境となり、人間に不都合ないわゆる「問題行動」を起こすことは、犬を飼う上で基本中の基本知識である。

現在、犬を巡る問題というのは国を問わず往々にして飼い主によるものであり、犬自身には罪はない。飼い主は自分たちで自分たちの首を絞めてしまわぬよう社会と協調的に暮らしていくこと、それが引いては犬の幸せに繋がると言うことを常に念頭に置いておきたいものだ。

著者:京子アルシャー
転載元:犬と暮らすための最初の条件 | dog actually - 犬を感じるブログメディア


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