【内分泌科担当獣医師監修】犬のカラダの調節システム「ホルモン」内分泌系の仕組みと役割とは?

内分泌系は、体内環境やカラダの機能を調節・制御する、ホルモンというさまざまな種類の化学伝達物質のことです。ここでは、内分泌系が犬のカラダにどのように作用するのか、そのしくみと役割について解説します。

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先生にお聞きしました
森 昭博先生
日本獣医生命科学大学 獣医保健看護学科
獣医保健看護学臨床部門准教授(獣医師)

【資格】
獣医師

日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2009年に日本獣医生命科学大学大学院で博士(獣医学)号を取得。
2012-2013年、イリノイ大学に留学。
現在、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター内分泌化を担当。
犬および猫の内分泌分野を中心に診療、研究を行っている。
5歳のMix犬「ぽよ」と同居中。
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【内分泌系】とは?

【内分泌系】とは?

anetapics/ Shutterstock.com

犬の体内にある各器官の機能を調和的に調節したり、外部環境が変化した時にカラダを適応させたりする仕組みは2つあり、1つが神経系、そしてもう1つが内分泌系です。

神経系が電気信号による情報伝達を行い、迅速にカラダの各器官に作用するのに対し、内分泌系は、「ホルモン」と言う化学物質によって情報を伝達し、カラダに作用することが特徴です。

内分泌系に含まれる腺や器官は、

下垂体(かすいたい)
松果体(しょうかたい)
甲状腺(こうじょうせん)
上皮小体(じょうひしょうたい)
副腎(ふくじん)
膵臓(すいぞう)
腎臓(じんぞう)
卵巣(らんそう)
精巣(せいそう)

などですが、ほかに、脳内の視床下部(ししょうかぶ)や消化管にも、ホルモンを分泌する細胞があります。

内分泌系の特徴・役割

内分泌系の特徴・役割

anetapics/ Shutterstock.com

内分泌腺から直接ホルモンが血液中に分泌されて、血液循環によって運ばれる

局所的な作用だけでなく、遠く離れた器官にも作用する

分泌過剰になると制御する機構が働く

あるホルモンが別のホルモンの分泌を調節することもある

成長・生殖、代謝、内部循環、自律神経などを調節する

犬の【ホルモン】とは?

犬の【ホルモン】とは?

photos2013/ Shutterstock.com

犬のホルモンには、アミノ酸がつながって作られる「ペプチドホルモン」と、コレステロールから作られる「ステロイドホルモン」、そしてアミノ酸の誘導体であるアミンで構成された「アミン型ホルモン」があります。

【犬のホルモン】

【ホルモン名】 【詳細】
ペプチドホルモン・「成長ホルモン」
・「インスリン」
・「オキシトシン」
  など
ステロイドホルモン・「副腎皮質ホルモン」
・「エストロゲン」
・「黄体ホルモン」
  など
アミン型ホルモン・「甲状腺ホルモン」
・「副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)」
  など

ホルモンは、ごく微量、例えば50mプールいっぱいに満たした水の中にスプーン1杯しかないほどのわずかな濃度でも作用するものがあります。

犬の主な【内分泌腺・器官】の仕組みと役割

犬の内分泌系器官

犬の内分泌系器官

ここからは、犬の内分泌系のそれぞれの器官・腺の構造と働きについて詳しく解説します。

下垂体

下垂体は、脳底の中央部にある視床下部のすぐ下に位置しており、大きさは3〜5mm程度のとても小さな器官ですが、生命を維持するためのホルモンを何種類も分泌する、とても重要な役割を果たしています。

大きく前葉(ぜんよう)と後葉(こうよう)に分かれ、それぞれが異なるホルモンを分泌しますが、とくに前葉は、他の内分泌器官の分泌を調節するホルモンを作る働きがあり、内分泌器官全体の司令塔と言える存在です。

また後葉からは、乳汁の分泌を促すオキシトシンや抗利尿ホルモンであるバソプレシンが分泌されます。

【下垂体から分泌されるホルモン】

【ホルモン名】【作用】
成長ホルモン「全身に作用し、すべての組織や臓器の成長を促進」
卵胞刺激(らんほうしげき)ホルモン「卵胞の形成や精子の形成を促進」
黄体形成(おうたいけいせい)ホルモン「メスでは排卵を誘発し、黄体を形成する黄体ホルモンの分泌を促進」
「オスでは男性ホルモンの分泌を促進」
プロラクチン「メスの乳房の発育、乳汁の分泌を促進」
副腎皮質刺激ホルモン「コルチゾール(副腎皮質)の分泌を促進」
甲状腺刺激ホルモン「甲状腺ホルモンの分泌を促進」
下垂体から分泌されるホルモン

Aneta Jungerova/ Shutterstock.com

松果体(しょうかたい)

松果体(しょうかたい)は、脳内の中央に位置する小さな線組織で、「メラトニン」と言う体内時計を調節するホルモンが分泌されます。

甲状腺

犬の甲状腺の構造

犬の甲状腺の構造

気管の左右の側面に1つずつ、貼りつくように存在し、長さは中型犬で2.5〜3㎝、幅が0.4〜0.6㎝程度の細長い器官。

代謝調節に関わるホルモンを分泌します。

【甲状腺から分泌されるホルモン】

【ホルモン名】【作用】
サイロキシン「全身の代謝を活発化させるホルモン」
カルシトニン「体内のカルシウム濃度を下げる(上昇を抑制する)働きをする」

上皮小体(じょうひしょうたい)

上皮小体(じょうひしょうたい)は、「副甲状腺(ふくこうじょうせん)」とも呼ばれ、左右の甲状腺にそれぞれ2つずつ存在します。

直径2㎜以下と非常に小さな内分泌腺です。

「パラソルモン」と言う、体内のカルシウム濃度を上昇させるホルモンを分泌します。

副腎(ふくじん)

犬の副腎の構造

犬の副腎の構造

副腎(ふくじん)は、左右の腎臓の内側に1つずつあり「炭水化物の代謝」「血糖値の上昇」「血圧上昇」「免疫機能」「電解質の調整」といった多岐にわたる役割を果たす器官です。

「副腎」という名前ですが腎臓とは関係ありません。

副腎は、中心部の副腎髄質、外側の副腎皮質の2つの部位に分かれ、副腎髄質では2種のホルモン(アドレナリンとノルアドレナリン)、副腎皮質ではステロイドホルモンが作られます。

副腎皮質から分泌されるホルモンを、「副腎皮質ホルモン」と言います。

【副腎から分泌されるおもなホルモン】

【ホルモン名】【作用】
ノルアドレナリン
アドレナリン
「血圧上昇、心拍数の上昇など、カラダの活動を瞬時に活発化させる役割を担う
「ノルアドレナリンは血管に、アドレナリンは心臓に強く作用
コルチゾール「さまざまな器官に作用し、代謝を促す作用を持ち、おもな作用は、糖の生産を促進」
アルドステロン「ナトリウムイオン、カリウムイオンの排泄を調節及び水分量を調節(血圧の調整)」

【コルチゾールの作用の詳細】

【コルチゾール】 【作用の詳細】
【代謝】への作用「血糖値を上昇させる」
「グリコーゲンの合成を促進」
「たんぱく、脂肪を分解」
【免疫】への作用「炎症を抑える」
「免疫を抑制する」
【血圧】への作用「血圧を上昇させる」
【骨代謝】への作用「破骨細胞を増加させ、骨吸収を促進する」
「骨芽細胞を減少させ、骨形成を抑制する」
【精神・ストレス】への作用「抗ストレス作用を持つ」
「食欲を促進させる」
「利尿を促進する」
おもな内分泌腺・器官のしくみと役割

USBFCO/ Shutterstock.com

膵臓(すいぞう)

膵臓(すいぞう)は消化酵素を分泌する働きがありますが、膵臓の中には、「ランゲルハンス島」という細胞の集まりが点在していて、そこから血糖値を調節するホルモンが分泌されます。

【膵臓から分泌されるホルモン】

【ホルモン名】【作用】
グルカゴン「血糖値を上げる働きをする」
インスリン「血糖値を下げる働きをする」
ソマトスタチン「グルカゴンとインスリンを抑制」

犬の【内分泌系】まとめ

犬の【内分泌系】まとめ

dimarik / PIXTA(ピクスタ)

内分泌系は犬のカラダのさまざまな活動を調節する働きがあるため、ここに不具合が生じると、通常の病気と違って、食欲が増進してしまうことがあります。

食欲があるから大丈夫と考えていると発見が遅れることも。

食欲だけでなく、体重の低下やほかの症状にもよく気をつけて健康管理を行うようにしましょう。

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